ATP250アトランタの予選初日の早朝。
エーちゃんは、ジョギング。
渡米から3日、毎日7時間半寝て、目覚ましもなく起床。
身体も軽く感じ、体調の良さを実感。
細かい情報収集は室賀さんがやってくれるため、エーちゃんは分析とコンディション作りだけに集中できる。
ホテルも一流のため、食事の心配も不要。
トレーニングルームも充実。
海外遠征でここまで整った環境で、やるべきことをやって試合に臨めるというのは初めての経験。
そしてATP250以上で本選から出られる――世界ツアーで戦える選手になれば、この充実した環境からさらに、予選2試合が免除される。
強くなればなるほど有利なのが、この世界。
そしてホテルに戻り、エディコーチと室賀さんを交え、初戦の相手対策を確認。
エディコーチと室賀さんは既に打ち合わせ済みで、細かい戦略は立ててある。
緒戦の相手はジョーヘイリー。
一昨日の練習を動画に収め、それをノートPCに映しながら説明する室賀さん。
曰はく、左利きのフォアのクロスを得意とするハードヒッター。
ということで、まずはエーちゃんの守備位置。
前よりの第1、後ろよりの第2、どちらでいくか。
エーちゃんの希望は第1だが、それは相手のフォア次第。
すると、室賀さん。
「第1でいくなら、通常よりやや左に寄るべきでしょうね」
というのも、今回の相手は全ショットの75%以上がフォアで、その内60%以上がクロスと考えていいくらい極端。
相手が絶対的に自信を持つショットの狙いを狭くする守備位置を取るべきと提案。
室賀さんの言う極端なシフトだとダウンザラインを狙われる危険を危惧するエーちゃん。
だが、エディコーチも室賀さんに賛成。
ショットの多くが直球系のため、ダウンザライン狙いはミスが増えるし、内側に入ってくる軌道が多いため、意外と取れると。
そしてその上で、第2の守備位置になった時も、左側に意識を置くべきだと。
そこから何とか相手にバックを打たせるパターンに持ち込んで、どこかで第1の守備位置にシフトして、チャンスがあればさらに前にいく流れが今回の基本だと。
そして相手にバックを打たせるまでのチェンジオブペースのパターンをエディコーチの方で準備済み。
これにはエーちゃんも思わずビックリ。
「どうした?」
「いや・・・・。ありがとうございます。ここまで細かくやって頂けるなんて」
「これはマルオのやり方に合わせてるだけだ。選手に合わせるのが俺のスタイルなんだ」
それに加えて、テニス未経験ながらも、情報から率直な意見を言う室賀さん。
この理論がエディコーチにも刺激を与えている。
「それにしてもテニスは試合中に助言できないから、事前のミーティングが重要になりますよね。だからとにかく、いろんなパターンを想定しましたけど、これで大丈夫かな?」
「充分です・・・・。一人ではこんなにできませんから」
改めて不安を感じる室賀さんだが、エーちゃんは自分一人ではここまではできないと。
「よし、じゃあ目標は当然本選優勝だ。そのためにまず一歩・・・・。
今日、勝とう」
「はい・・!」
この場を引き締めるエディコーチに、軽快に返事をするエーちゃん。
そして試合。
エーちゃんは世界ランク298位。
そして相手は予選第6シード背化ランク203位のジョー・ヘイリー。
室賀さんは次の対戦相手の映像を撮るために移動。
エーちゃんの試合を撮るのは諭吉。
エディコーチは観客席でエーちゃんの様子を伺い、その横ではなっちゃんが声援を送る。
(一人だけど、一人じゃない・・・・!!)
そんな風に今までとは違うチームの結束を感じるエーちゃん。
試合はエーちゃんのサーブから。
最初のサーブの手応えも、いつも以上のもの。
そしてエーちゃんは室賀さんに言われた通り、やや左寄りに守備位置を取る。
するとヘイリーの強烈なフォアも、コースが予測できていればと、ダウンザラインに決める。
そしてそのまま、このゲームはラブゲームでキープに成功。
完璧な出だしのエーちゃん。
続くヘイリーのサーブは強烈なもの。
ここを完璧にキープされてしまい、エーちゃんはリターンゲームは一旦下がって対応することを決断。
そしてゲームが進むと、ヘイリーが警戒されているクロスではなく、ダウンザラインを狙ってくる。
そして想定通り、ミスも増えてきたため、これを活かすプレーを。
(細かい情報がもらえた分、いつもより試合を客観的に見れる。今だけに集中できるから、いつもより余裕があるんだ)
そしてエディコーチが言う通り、ヘイリーがミスを嫌がり、入れに来る。
(強打の強みが消えたなら、ここを逃さない!)
ヘイリーの甘くなったフォア、エーちゃんはこれをドロップで決め、ここから一気に仕掛ける。
(海外の試合をこんな思い通りにできてるのは初めて・・・・。環境さえ整えば、海外でもこんなプレーができるんだ。いや・・・・むしろ海外の方が刺激があって楽しい!)
いつも以上のパフォーマンスを発揮したエーちゃん。
6-4、6-3でヘイリーを下し、2回戦へ。
チームがいるアドバンテージを試合を通じて改めて実感。
そして次の試合で確信に。
次の選手は世界ランク133位とさらに格上の相手。

しかし、情報で相手のサーブを丸裸にして、そこを徹底的に突く戦略が功を奏し圧勝。
これで予選を突破し、本選に出場できることに。
いよいよ世界デビューとなる。
と、そうして試合を終えたエーちゃんに声をかける人物が。

それは今大会本戦から出場のアレックスと、その応援に来ているマーシャ。
久しぶりの再会に喜ぶエーちゃんとアレックス。
マーシャも久しぶりにエーちゃんと再会。
喜んだ様子を見せるかと思いきや。

その視線はエーちゃんの後ろのなっちゃんに。
「ああ・・・・。マーシャも・・久しぶりだね。
なっちゃん、この子がたまに電話で英語を教えてくれてるマーシャだよ」
と、なっちゃんにマーシャのことを紹介。

するとマーシャは『なっちゃん』という言葉に反応。
というのも、散々電話でなっちゃんに関する話をエーちゃんから聞かされ続けたため、内心ヘイトが溜まりまくっている。
「初めまして、鷹崎ナツです。いつもエーちゃんがお世話になってます」
エーちゃんの嫁挨拶にマーシャは満面の笑み。
「こんにちは、マーシャです」
と日本語で挨拶。
その上で、ギュッと握手。

なっちゃんへの敵愾心から異様なオーラをまき散らすマーシャを背に。
「マルオ! 明日練習付き合ってくれないか?」
「え・・え、うん! こっちこそ、助かるよ!」
二人は翌日の練習の約束を。
というところで次回最終話。
テニスの世界で生きるための最初の一歩――<#455 ベイビーステップ>につづく。
簡易じゃない感想です。
エーちゃん世界ランキング298位ですか。
ですが、予選シード選手を相次いで破り、本選出場。
エディコーチと室賀さんがいい感じに噛み合い、チームが機能していますね。
正直言って、エディコーチが選手に合わせるスタイルでやっていくのがまた、エーちゃんのスタイルと噛み合っている感じはしますよね。
それに加えて、未経験者だからこそエーちゃん以上の情報至上主義で、大胆な提案をしてくる室賀さん。
それに対してもエディコーチが経験からの補足も有り。
今回はそれがそれがバッチリ噛み合いましたが、恐らくダメな時もあるのでしょう。
その時は、その時で、エーちゃんが今までやって来たように試合中に情報を修正していけばいいわけですし。
そのための情報のスタートラインが既に今までの試合とは全然別物というだけで、エーちゃんにとってはベストの状態で試合に臨めるというものかと。
そしてまさかのアレック、マーシャ再登場。
うん、これは正直、予想していませんでした。
巻末コメントのマイペースという言葉が、ものすごくシックリきました。
いや、まぁ、試合とか展開とか滅茶苦茶巻いてはいるんですけど、それを感じませんからね。
それにしても、マーシャは……。
不憫というかタフというか。
何とか口実を作ってエーちゃんと電話する話を取り付けたものの、会話の内容が彼女の事ばかりというのは。
うん、これはなっちゃんへのヘイトが溜まる一方ですよね、そりゃ。
その上、自己紹介であの嫁挨拶。
そりゃ日本語で自己紹介するくらいのカウンターはしますよ。
マーシャですし。
とりあえず、今回は挨拶だけでしたが、エーちゃんを驚かせようと、挨拶以外にも敦士さんから日本語を教わっていそうな気はしますが……。
今回、なっちゃんと遭遇を見越して、これだけ教わってきたというのもアレですので。
いや、まぁ、エーちゃんが電話でなっちゃんの事ばかり話していた関係で、遭遇は予期していたのかもしれませんが……。
そして次回サブタイは――ベイビーステップ。
まぁ、これしかないですよね。
はぁ。
本当に最終回なんだなぁ。
現状ではACTⅡの話は無さそうかなぁって気になってはいますが――。
うん、次回で一気に数年後とか飛ばさないで、アレックスとの試合でエーちゃんの戦いはこれからだ的な感じで、いつでもACTⅡ始められるENDでいいんじゃないかなぁと。
いや、でも、まぁ、綺麗に終わるなら、それはそれでいいかなぁという気持ちに、要約ほんの僅かなってきたような気がしないでもないかもしれない僕なのです。