あと3ポイントでセットダウンというところに追い込まれているエーちゃん。
この劣勢を跳ね返すにはリターン。
先ほどの繊細なタッチの球が来る前に打てるリターンで勝負。
エッグボールにもまだ手を焼いている段階で、新しい球が混ざってきたら手に負えない。
だからその前にカタをつけられる攻撃力でと考えたエーちゃんは後ろに下がる。
リータンゲームだからこその、超ハイリスクを覚悟して、神田がトスを上げると同時にダッシュ。
神田のワイドへのサーブを読み、助走を活かし、ラケット面を合わせるだけのライジング。
これがリターンエースとなり、15-15となる。
青井コーチも強引だが、これくらいは必要かと納得。
リスクを上げたリターンうまく決まったエーちゃん。
これは情報を基に確率に懸けたのだから運だけではない。
リスクを負って成功すれば実力でいけると証明した。
もう一度、エースとは言わないまでも重圧をかけたいエーちゃんは、先ほど同様に後ろに下がる。
神田のサーブは力より正確性。
情報を重視するエーちゃんとは相性がいい。
(守る時は徹底して守って、攻めるとなったら、ほぼ捨て身かよ。だったらなおさら、こっちもそれなりに攻めなきゃなんねえ)
エーちゃんはここで再びダッシュリターン。
しかし神田のサーブはコースがよく、返すのが精一杯。
リスクを上げたサーブにも食いつかれ、先手必勝の喧嘩テニスだけではエーちゃんを崩せないと感じた神田は、崩すために足りないものを足さなければならないと。
神田が足りないものを足さなければならないと感じたのは、鹿梅の練習中のこと。
外周を終え、コートに入る2年組?
半年間、普通の仲間の3倍は走らされた神田はこのくらいは余裕。
持久力なら誰にも負けないという自信があるほど。
他の仲間達も中学の時は一度も勝てなかった相手に勝ったり、ここぞという時強気な展開のイメージが沸いたり、レベルアップしている実感を得ている。
最初こそ死ぬかと思ったが、慣れてさえくればこっちのものだと、息も絶え絶えの新一年生を見てそう思う。
が、神田はその『慣れてきた』という言葉に、嫌な予感を覚える。
それはこのままではダメになるという予感。
神田は元々少人数制のクラブが練習の拠点だった。
そこは個人の能力を伸ばす自分のためだけのメニューでやってきた。
そんな神田だからこそわかる。
鹿梅精神は、あくまでも鹿梅という組織のためにあるということ。
上下関係は厳しいようで、その実盲目的に上の言うことさえ聞いていればいいという楽さがある。
これは組織での活動を効率化させるためのもの。
全員が同じ練習をしていることも、誰もが強化されやすい部分を全員で強化することで組織全体を効率的に強化しているということ。
それに慣れてきたということは、組織の一員として使える人間になってきたということ。
結果、神田はそれで成長できたし、多くのものを得た。
それに感謝はしているし、これからもまだ継続する意味はある。
でも充分多くを得ることができ鹿梅でも、そこに慣れたらやらなければならないことがあるはずだと。
組織の一員でありながらも個としてもできることを。
そして神田は独自に池出身であるSTCの練習内容を調べたりしながら、自分による自分のための練習内容を組む。
組織から飛び出した時に向けて。
そして神田は監督に休日のコートの使用許可を求める。
規則があるためにそう簡単に貰えるものではなかったが、それでも何とか監督を説得し、2時間の使用許可をもらうことができた。
すると今度は同室の2人に声を掛け、練習に付き合ってもらおうとする。
が、せっかくのオフに何でと渋る2人だったが、あの神田が深く頭を下げたということで、渋々ながらも練習に付き合うことに。
神田は2人とサービスラインの枠内で2対1の試合をしようと提案する。
こういったミニゲームは鹿梅ではやらないこと。
とはいえ、折角一面使えるのだから普通にやった方がいいのではという言葉に、神田は絶対に意味があるから今日はこれをやってみようと強く推す。
神田がこのミニゲームを提案したのは、単に前に出た時の練習というだけではない。
小さいコートでプレーすることで、自分の状況を客観視する能力を高める。
それだけではなく、ラリーのテンポが速くなるから、テニスで一番大切な、早く正確に球の位置に行く練習にもなる。
すると当然、小技や繊細なタッチで打つ練習にもなり、テニスの基本ストロークにもつながる。
この練習によって神田の繊細なショットは磨かれていく。
(俺は組織の一員より世界一になりたいんだ。この鹿梅という組織を出たら一人で戦う世界に飛び込む・・・・。そのためには鹿梅精神を取り入れた自分のテニスを作り上げなきゃダメだ)
そして試合に戻り――
(そういうテニスでなきゃ勝てないのが難波江君ら1コ上にいる何人か・・・・。あんたもその一人だ!)
というところで次回<#245 盾と矛>につづく。
エーちゃん、サーブとリターンの強化で流れを掴んだかと思いきや、このタイミングで神田の回想。
鹿梅のテニプ+神田のテニスで簡単には流れを渡さないってな感じです。
中々に読みにく試合です。
とはいえ、このエーちゃんのリターン、決まるとカッコいいなぁ。
まぁ、どこまで神田のサーブを読めるかが肝になるのでしょうが。
あくまで個人的な意見ですが、神田の考え方には賛成。
鹿梅の練習方針にも若干疑問符を浮かべていた僕ですし。
誰もが強化されやすい部分を全員で強化。
それは分かります。
が、やはりその後、ある程度個別の練習内容は必要なんじゃないのかなぁと思わないでもない。
って、それって荒谷のいるGITCの基本方針じゃないですかー。
まぁ、この辺は強豪校とはいえ、学校とクラブの違いってのもあるのかもしれませんが……。
うーん、でも、どうなんですかね。
少しでも早く世界へ旅立ちたい神田だからこそ、そう思って独自の練習を始めたわけですが。
ですが、あるいは時期尚早なのではないかと。
神田はまだ2年。
しかも鹿梅に来て1年程度。
慣れたというにはまだ早いという気もします。
鹿梅を卒業してプロになった選手がいるというのは明言されていましたが、その選手が大成しているかどうか。
その辺で僕の考え方も変わるとは思いますし。
鹿梅は敢えて技術的なものよりも、身体と精神を鍛えてさせているのかなぁと。
ひょっとしたら技術的なものは鹿梅を卒業してからでも遅くない的な考え方で。
そっちのほうが、テニス選手として、もっと言うならプロとして、大成するための近道になるということで。
鹿梅はそのための土台固め。
もっと言ってしまえば、踏み台としてもいいと、そのくらいのことを考えたいたりするのだとしたら、ホントに僕の鹿梅への評価が、ガラッと変わったりします。
うーん、どうなんでしょうね?
この辺、体育会系ではない僕には難しいところなのですが……。
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