タクマさんの236キロのサーブに観客は騒然。
間違いなく、日本で一番速いサーブだと。
池もタクマさんのサーブが、いよいよ世界に注目される武器になってきたと。
それに三浦コーチも、ようやくここまで来たと感慨深げ。
タクマさんがSTCに入った当初から発揮して見せた、両親からもらった恵まれた身体とボールセンス。
他の子とはかけ離れた才能に、いずれ日本を代表する選手になるだろうと誰もが期待した。
それは三浦コーチも同じ。
タクマさんの才能は、多くの才能ある子供を預かるSTCの中でも一際輝いていた。
コーチの役目はそういう強くなりたいと上を目指す子供たちの手助けをすること。
だから相談には何だって乗るし、時には怒ることもある。
しかし、上を目指すのをやめてしまった子には、ほとんど何もやれないことが多い。
それもわかった上でできることはしたつもりでも、タクマさんに対して無力感を感じる事になる。
諦めてしまいたい気持ちは痛いほどわかるし、コーチとしてほとんどの子が諦める姿を見ることとなる立場である。
判断と選択は早い方がいい、そういう世界。
だが、才能がある子ほど判断に苦しむこととなる。
だからこそ、本気できらめきれていないタクマさんを何とかしてやりたいと思い続けていた。
そんな時に一計を案じたのが、エーちゃんとの試合。
それが切欠となり、タクマさんはテニスに戻って来た。
だからこそ、三浦コーチはエーちゃんに感謝しているのだと。
そんな三浦コーチの前で放ったタクマさんのサーブ。
これがワイドギリギリに、エーちゃんに触れさせないエースで40-0。
しかも、その球速は239キロ。
ほとんど240キロ。
このスーパーサーブに観客騒然。
こんなのが入ったら、もうどうしようもない。
これが続くなら、世界のトップにだって勝てる、そんなレベル。
そんなことがあるはずがないと信じて待つしかない。
このサーブに、茫然としていたエーちゃんだが、息を吐き、気持ちを切り替える。
(ダメだ・・・・。俺は何で負けても、気持ちでだけは負けるな! 次は取れる球が来るかもしれない・・・・。タクマさんの球威が増す分、俺もさらに強い気持ちで迎え撃つんだ!)
そう強い気持ちで、構えるが。
次のタクマさんのサーブ。
エーちゃんが寒気を感じるほど、力の抜けた綺麗なフォーム。
そこから繰り出されたサーブは、センターへ。
エーちゃんに反応もさせなかったそれは、241キロ。
連続のスーパーサーブ、まさかの240キロ超えに、観客は一層沸く。
その歓声は、コートの外まで響くほど。
そして、それは試合を終えて、移動中だった井出達の所にも。
また、中継を見ていた関係者。
そしてラウンジのプレーヤーたちにも一気に広がる。
さすがにこの状況ではどう応援すればいいかわからないと言う佐々木さん。
こういう場合は――と、いうものの、、諭吉もこんな時にかける言葉を持ち合わせていない。
「タクマさん・・・・自己最速どころか、今日は自己最高のサーブですよね?」
そう言って、三浦コーチの方を向くと、その三浦コーチの目にはうっすらと輝く涙が。
タクマさんプロ転向の際に、三浦コーチに、自分のコーチになってくれるようお願いをしていた。
とはいえ、三浦コーチはSTCのコーチ、そう簡単にOKできるものではなく、タクマさんも専属でのお願いは無理だと承知。
それでも最初の1念はお願いしたいと。
サーブ&ボレーは特殊なうえ、肝心な最初は自分のことをよくわかっている人に頼みたいからと。
そういった経緯があって、三浦コーチはタクマさんのコートとなった。
そして練習中、タクマさんは三浦コーチにどうやったらもっとサーブが良くなるか質問。
するとトスは今より若干前の方がいい、そうした方がジャンプもしやすいし、打点を高くできるかもしれない。
しかし、タクマさんがサーブにアドバイスを求めるのは異例。
今までは自信があるから独自のフォームを貫くと言っていたため。
「いや、サーブ&ボレーで一番になるにはさすがに今のサーブじゃ足りない。今、世界レベルの試合をサーブ&ボレーで勝つのは、昔みたいに簡単じゃない・・・・。でも、俺にはもうサーブ&ボレーしかないし・・・・やるしかない」
タクマさんの世界クラス発言に一瞬虚を突かれた三浦コーチだが、一緒に見直していこうと。
そして、今まさに、タクマさんの成長を実感する三浦コーチ。
タクマさんは、これ以上ない手応えを感じている。
(鍛えてきた使いたい筋肉だけがフル稼働している感覚。思い描いたことが、全部で来てる。球速だけじゃない。今のゲームは確率もコースも完璧だった)
一方のエーちゃん。
今のゲーム、最初のポイントこそ惜しかったが、その後はサーブ3本でやられラブゲームキープを許してしまった。
それをノートの書いて、改めて何もさせてもらえなかったことを痛感させられる。
(どれだけの情報と強い気持ちを持って臨んだって・・・・、あのファーストサーブを100%で入れられたら・・・・、やれることなんてあるわけがない)
初めてタクマさんに打ちのめされてから2年、やれることはやってきたつもりだが、それでも届かないのか。
そんな気持ちが去来する中、それでも今こそ、以前の自分が言った『再検討』の時と、ノートと格闘。
しかし、もう何も、打つ手はない――そんな結論しか出ない――という所で次回<#331 止め>につづく。
涙って、三浦コーチのでしたか。
正直、前回時点ではエーちゃんが負けを覚悟してのとかヒヤヒヤしましたが。
……まぁ、でも、それもあながち間違いではない雰囲気で。
本当に苦しい状況が続いています。
そして三浦コーチですが、このタクマさんの成長は本当に嬉しいんでしょうね。
恐らく一番手がかかった教え子でしょうし、そういう色々なことを含めて、感慨深くなっての涙なんだと思います。
そんなタクマさんがコーチになってくれと頭を下げて、一緒に練習をしてきて、この結果ですもんね。
こんな嬉しいことはないかと。
で・す・け・ど。
エーちゃんにとってはそれどころじゃないですよね。
洒落にならない。
いくら再検討しようとも、打開策が何も見えてこない。
こんな絶望感はないですよ。
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