エーちゃんのロブは惜しくも抜けず、強烈なハイバックボレーを決められ、3-2のタイ。
しかし、この攻防に観客は大盛り上がり。
この試合が大会のベストマッチだろうという声が上がり始める。
そのまま、声援が飛び、手拍子でエールが。

それは井出戦の時のような、観客の盛り上がり。
とはいえ、似た経験があるのだから活かすと、その重圧と力に変えようとする。
一方のタクマさんはエーちゃんがどうこうではなく、自分のテニスができているかどうかが鍵。
その中、今は悪くないと考える。
リターンゲームはできるだけ早く前を取った方が自分のテニスになる。
そうなれば、力が勝負を決める展開にもなりやすい。
エーちゃんの鼓動は更に増す。
もう自分でもよくわからないくらいの重圧。
でも、これでいいはずだと。
エーちゃんはワイドへのサーブ。
そしてリターンダッシュで前に来たタクマさんをダウンザラインで抜く。
エーちゃんは、タクマさんと一度のブレイクが勝敗を分ける最終セットで人生を懸けたギリギリの戦いをしているという手応えを感じる。
ついにここまで来たんだと。
何度挑んでも、その都度跳ね返されてきたが、今、確かにタクマさんの近くにいるという実感を。
エーちゃんは第6ゲームもキープし、3-3。
とはいえ、タクマさんの方は、その現状に多少なりとも頭に来ている。
テニス歴3年の後輩に追い込まれているのだから、でも、そういうダサい部分も受け入れて前に進もうとする。
するとタクマさんのサーブはセンターへ209キロのフラット。
それをサーブ&ボレーで決め、タクマさんは完全復活を思わせるプレー。
実際にこのゲーム、あっさりキープし、4-3。
エーちゃんは今まで同じプロ志望の荒谷や難波江に負け続きで、目標だった全日本ジュニアでも優勝できなかった。
だからこそプロの世界で勝って生活していくだけの自信が持てなかった。
それでも前に進んだらできることがあった。
沢山の人からいろんなことを吸収して、もう一回り強くなれた。
この大会も予選からここまで、プロとして生きる人達と戦って、プロとして生きる術を吸収できたから、また少しだけ強くなれた。
だから今、ここにいるという気持ちは強い。
エーちゃんもキープし、4-4。
タクマさんのサーブ。
日本最強のサーブには、情報での読みと反応と状況判断で対抗。
身体と力にはコントロールで対抗。
そうすることでエーちゃんのテニスは通用している。
日本ランク9位に負けていないという実感を持てる。

(こんな試合ができるなら、プロになってもいいのかもしれない・・・・)
そんな思いが脳裏を過り、思わず涙を拭う。
それでもタクマさんの222キロの強烈なサービエースが決まり、ゲームカウントは5-4。
(・・・・サービスエースはどうしようもないけど、修正されたサーブのリズムはだいぶ掴めてきた。次は何とかタクマさんを前に出させないようにしてキープ・・・・。その次をブレイク・・。
タクマさんは次、俺をブレイクすれば勝ち・・・・。・・・・当然、トップギアで仕掛けてくる。そういう時こそ今のタクマさんの本質が見えるはず。良く見て、その情報で勝つ!)

勝利、敗北共に迫る――というところで次回<#343 境界線>につづく。
正直、これだけの試合を見せられたら、観客の盛り上がりも納得です。
そしてそんな中で、タクマさんと互角の勝負をすることで、プロとしてやっていく自信を得たエーちゃん。
これでも、負けても……ってのは、ありそうな雰囲気が無きにしも非ずなので、折角ですので、勝って行けるところまで行って、スポンサーを見つけてもらいたいところです。
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