門馬さんとの準決勝。
第1ゲーム、門馬さんはあっさりキープしたものの、怒りを露わにした。
(スムーズにキープできたのに、あの感じ・・・・。何か気に入らないのかな・・・・。怒りは基本的にパフォーマンスを下げる・・・・。だったら俺には有利なはず。
とにかく・・・・俺がやることは変わらない。まずは自分のテニスでサーブキープ!)
センターへの速いスピン。
しかし、それをあっさりと返されてしまう。
怒っているように見えても、門馬さんのプレーは冷静。
(期待の若手と聞くと・・・・。ついつい頭に血が上っちまう・・・・。それでどう来るんだよ・・・・)
エーちゃん、パワーヒッターである門馬さんと強打で打ち合うことは避け、スピンサーブを活かし、スライス。

(またか・・。これは力から逃げるためのチェンジオブペース・・・・)
スピンからスライス。
サーブゲームでの、この緩急も門馬さんには通じない。
むしろ逆に追い込まれてしまうほどのショットを打たれてしまう。
これが門馬さんの鉄壁のディフェンス。
ならばとスライスの次は、門馬さんの球威を活かし、強い直球で勝負に出るが、これはもう完全に門馬さんの読み通り。
(追い込まれながらのチェンジオブペースは戦略とは言えない・・・・。ただの『博打』だ)

門馬さんのフォアのダウンザライン。
これが決まり0-15。
エーちゃんは、門馬さん相手には、普段のチェンジオブペースでは話にならないと判断。
まだ序盤ながら、手遅れになる前に行くしかない。
種村さんとの試合終盤の様に緩急、回転、コース全ての質を上げて、浅野さんを参考にしたハイリスクのチェンジオブペース。
アドサイドからのサーブ。まず早いフラットをワイドへ。
そして帰ってきたリターンを思いっ切り鋭角のクロスで狙い、門馬さんをコートの外へ。
そしてできたオープンコートを狙って、速攻強打。
これには流石の門馬さんも間に合わないが、惜しくもアウト。
しかもミスをするほどのコースだったにも関わらず、あと半歩で返される所だった。
が、門馬さんは敢えてそれを見せているのだろうと判断。
種村さんとは真逆で、どんな球でも諦めず最後まで追うというところを。
次のポイントはストローク戦となる。
そんな中、門馬さんの動きが一気に加速する。
互角の状況まで押されたところで、攻撃に。
そこが攻守の切り替え点なら、狙ってみる価値はある。
門馬さんのクロスへのショットを読み、当たる。
とはいえ、門馬さんのショットの球威と深さでは、中途半端なチェンジオブペースではダメ。
ということで、ここはその球威を活かした逆転の一撃。
これをバックハンドのダウンザライン。
これがラインギリギリに入り、15-30。
(前のゲームと同じ・・・・。追い込まれて無理して打ったショットが、今回はたまたま入っただけ)

それだけに門馬さんの不機嫌さは変わらない。
「それで浅野さん・・・・。昨日、門馬とは丸尾について、どんな話をしたんです?」
「ああ、丸尾くんは門馬くんが苦手だった俺に似てるって話だよ」
「そしたら怒ってたよ。浅野さんに似てる高校生なんているわけないって」
「力に対抗してチェンジオブペースってとこは似てますよね」

「うん、でも門馬くんの味方は違うんだ。俺のスタイルはテニス界に交互に訪れた、力とギジュ鬱の時代を生き抜いてできたもので、一朝一夕で習得なんかできやしないと言うんだ」
「なるほど・・・・。確かにそれもそうでしょうね。丸尾は肉体改造したり苦労はしましたが、力の時代に力で対抗しようとまではしていない」
「俺が丸尾くんほど頭がよくなかっただけなんだけどね」
「ハハハ・・・・。それで浅野さんは門馬に、どうアドバイスを?」
「実際、門馬くんは実力上位だし『自分のテニスをした方がいい』と率直に言ったよ。ただ、あのノート・・。つまり『情報戦略を甘く見ない方がいい』とも助言した。アレは門馬くんにとっても新しいテニス・・。自分のテニスが『いつの間にか、徹底分析されて状況が変わる前に勝負を決めた方がいい』ってね」
エーちゃん、いいサーブが入っても、門馬さんの鉄壁の守備に阻まれて、攻めあぐねている間に一気に逆襲を食らう。
ならばと、攻守の切り替え点を狙って、リスクを負ったコントロールショット。
これも際どいものの、アウトとなり、早々とダブルブレイクポイントのピンチを迎える。
(ダメだ・・・・。相手は基本守備的なのに、どうしても先に追い込まれて、対応が後手後手に回ってしまう)
それには追い込まれないようにするしかない。
そのために、さらにリスクを上げて、球威と精度を上げる。
というのは、もう無謀の悪循環。

ブレイクされて取り返しがつかなくなる前に、何とかしなくてはならない。
浅野さんが言っていた、門馬さんが『守る必要がなく、攻めづらい状況』を作れれば、門馬さんのリズムを崩せるかもしれない。
それは打開策というよりも、消極策だが、今はとにかく変化が必要と判断。

(『うまくいけば、流れはこっちに来る』・・・・。『ひとつ決まれば状況は変わる』・・・・そんな不確かな結果に頼るテニスに・・・・、日本を背負わせることはできねえ。この試合を左右するブレイクポイント。どういう選択をするかが、お前の人生を大きく左右する。そのつもりで来い・・・・!)
早々のピンチ、エーちゃんは凌げるか――というところで次回<#365 責任>につづく。
いきなりのダブルブレイクポイントを迎える大ピンチ。
しかもチェンジオブペースが後手後手に回ってしまっていますね。
力から逃げるためのものになってしまっているかは、まだ判断するには早いかもですが。
少なくとも、今のままでは、サーブゲームといえど門馬さんからポイントするのは厳しそうですが……。
とりあえず、まずこの第2ゲーム。
その前のこの重要ポイント。
ここで、門馬さんの想定の上をいくだけもを示せるのかどうか。
そこが最初の関門という感じです。
スポンサーサイト