三玖の悩みが晴れる少し前。
“旅館”と“倉庫”の目撃から、五月の中で深まる、風太郎への不信――。
二時間前。
病床の一花に付き添う五月。
「こんな時に体調崩すなんて、ついてないなー」
「事故とはいえ不注意が招いた結果です。反省して日中はおとなしくしていてください」
「え~~。
あー…五月ちゃんは、私に付き合わなくていいから、スキーしてきな」
「ですが…」
「大丈夫。私も回復したら合流するから。
…それともフータロー君と顔合わせづらい?
あの旅館からずっと警戒してたもんね」
「やはり…あれは一花でしたか」
「あの日、食堂で勉強を教えてもらおうとした時には考えもしませんでした。まだ三か月です、まさかこんなことになるなんて」
「そんなにフータロー君は悪い奴に見えるかな?」
「そ、そういうわけでは…。ただ、男女の仲となれば話は別です。私は彼のことを何も知らなさすぎる」

「男の人は、もっと、見極めて、選ばないと、いけません」
「五月ちゃんは、まだ追ってるんだね。
大丈夫、フウタロー君はお父さんとは違うよ」
家庭教師にふさわしいのか?
男として信頼に足るのか?
上杉君のことを知るんだ。
――見極めるために。
というわけで、五月、ゲレンデに立つ。
そして二時間後。
三玖は一花に電話。
『三玖、話って何かな?」
(平等じゃなくて公平でいい。私はどうしたらいいんだろう)
『もしかしてキャンプファイヤーのこと?」
「う、うん。伝説は手を結ばなきゃいけないって、クラスの人たちが話してた。そうだ」

「フータローの手は二本ある。両手に花でいこう」
まさかの暴走を見せる三玖だが、そのタイミングで一花は咳き込み、聞こえなかった。
体調も朝より悪化している模様。
それでもスキーしたいとごねる一花だが、三玖が強くベッドに戻るよう言い聞かせる。
『はいはい、戻りますよー』
「お大事に」
そして電話を切ろうかというタイミングで、風太郎がかまくらに戻ってくる。

「なんだ、一花。
やっぱり悪化したか。お互いついてないな」
三玖に顔を寄せ、電話に入り込んでくる。
「ス…スピーカー」
「あれ、フータロー君に体調悪いって言ったっけ?
まぁ、いいや。三玖とフータロー君一緒なんだね、ちょっと安心…かな…。
じゃあ私は戻るから、二人にお願い。一人でいる五月ちゃんを見つけてあげて、本当は寂しいはずだから』
一花の言葉に従って、五月を探す二人。
真っ先にやってきたのは、フードコート。

「ここに五月がいないとは」
「失礼…」
そもそもスキーを始めてから一度も見ていないため、上級コースを滑っている可能性もある。
と、ここで、風太郎が眩暈で、ふらつく。
「フータロー? 汗、凄いけど…」
(自分を騙し続けるのも限界か…。やはり、らいはから持ってたか。ということは一花のも…。悪いことをしたな)
「休んだほうがいいよ」
具合の悪そうな風太郎を心配する三玖だが、そんな彼女に迫る影が。

「三玖と上杉さん、見ーっけ!」
「!」
三玖に抱きつき、そのまま倒れこむ四葉。
「へへーん。こんな所で油断してちゃだめですよ」
(忘れてた…)
「あと二人も捕まえたし、残るは五月を見つけるだけですね」
四葉も、五月を見つけていない。
しかも、逃げ切られたわけではなく、見かけもしなかった。

「事態は…思ったよりも深刻かもしれない」
というわけで、風太郎は遭難の可能性も考える。
いくら広いゲレンデとは言え、五人ともまったく目撃しないというのは不自然。
二乃がいた上級コースにもいなかった。
また行っていない場所といえば、整備されていない立ち入り禁止区域。
本当にここに行ったのだとすると、遭難が確定。
というわけで、各自別れ、コテージの確認、先生への報告を行おうと。
そんな、皆を止めたのは一花(仮)。
「もう少し探してみようよ」
「なんでよ、場合によってはレスキューも必要になるかもしれないのよ」
「えっと…。五月ちゃんも、あんまり大事にしたくないんじゃないかなーって」

「大事って、呆れた。
五月の命がかかってんの、気楽になんていられないわ」
「…ごめんね」
口論になってしまう二乃と一花(仮)。
そして風太郎も、五月の居場所を推察するが、熱で頭が回らない。
「フータロー、もう休んだほうがいいよ」
(あと少しなんて…。今日どこかで…)
「聞いてる? フータロー、フータロー」
――上杉君。
どこかで、五月に呼ばれたことを思い出す風太郎。
「もういい。私が先生を呼んでくるわ」
「待ってくれ、俺に心当たりがある」
二乃を止め、そう断言する風太郎。
「大丈夫だ、恐らく見つかる」
「……信じていいのよね?」
「ああ、一花付いてきてくれ」
「!」
と、そうして風太郎と一花(仮)が向かったのは、リフト。
「い…意外と高いな…」
「確かに、良く見えそうだけど…。
!」
目の前のカップルが肩を寄せ合う様子を見て、、
「やっぱ、やめない?」
そう言いだす一花(仮)。
「あ! あれ五月じゃないか?」
「え」
と、風太郎が示した人物。
それに対して、あくまでも、微妙な反応を示す一花(仮)。
「うーん…違うような…」
「だよな。だってあれ、どう見ても男だし」

と、そこで、風太郎は一花のフードを取ると。
「見つけた」
長い髪がこぼれ出す。
「お前は目が悪いから、眼鏡がないと見にくいだろ。
…悪いな、大事にしちまって。言い出しづらかっただろ」
「……、…いつから…」
「!」
「気づいたのは、ついさっきだが。きっかけはあの時。お前が俺を『上杉君』と呼んだからだ」
風太郎の意外な言葉に、息をのむ五月。

「ふー、一花は俺を名前で呼ぶ。いくら俺だってな、そのくらいはお前たちのことを知ってる」
手を握りしめる五月。
「すみま…、…せんでした…。
私…確かめたくって…」
「バカ、不器用め。つめが甘いんだよ」

と、ここで風太郎に限界が。
身体の力が抜け、五月に寄りかかってしまう。

「! あの…、上杉君…。それはちょっと…」
ビックリした五月が、赤面しながら風太郎の様子を伺うと、意識がないよう。
「上杉君…?」
風太郎の誠実さが五月の疑念を解消!
しかし、キャンプファイヤー目前に風太郎がまさかの体調不良…!!
というところで、次回につづく。
実は、前回からゲレンデに立っていたのは、一花のフリをした五月だった――という衝撃の展開。
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はい、相変わらず白々しいですね。
大方の予想通りですか。
今回触れていた通り、そのための「上杉君」呼びですからね。
まぁ、風太郎が気を回した分、大事になりかけましたが。
五月遭難事件は解決と。
しかし、
「男の人は、もっと、見極めて、選ばないと、いけません」
五月の発言と。
「五月ちゃんは、まだ追ってるんだね。
大丈夫、フウタロー君はお父さんとは違うよ」
一花の発言。
まずは“父”というのが、素直に中野パパンでいいのかなぁ。
姉妹は母がいなくなった――と表現していましたが、彼女らの家庭事情もいまいち不明ですからね。
まぁ、意味深な言い方をしてしまいましたが、この辺はちょっと穿ちすぎという自覚もあるので、スルー。
単純な話、パパンがワーカーホリック気味で家に寄り付いていないってのは、あると思います。
まぁ、学校に来るまで送ってもらえる時は父親がいる時だと思われますので、別宅があるってわけでもないのかな?
意外と、風太郎とパパンが似ている可能性が、あったりなかったりと思ったり。
あの五つ子が勉強嫌いなのも、その当てつけ――って言うと、ちょっと言葉が強すぎるかもしれませんが、意外と反抗的な意味合いもあるんじゃなかろうかと思えてきます。
あっさりとって訳ではありませんが、五月のことを見抜いた風太郎に驚いていた五月。
……パパンが五つ子の見分けがつかない。
――いや、未だにそうだとは流石に考えにくいので、長らく見分けが付かなかった的なことがあったのでは?
まぁ、これも穿った見方だとは思いますけど。
そして暴走して、両手に花もOK状態の三玖。
何だか、間違った方向にアクセル全開感がすごいですが……。
ですが。
今の風太郎の状態を鑑みると。
この林間学校のラストは、五つ子皆で風太郎の手を握って、看病エンドかなぁと。
“母親のおまじない”ですので、十分あり得る展開かと。

今回の最初のカットも、一花の手を握る五月でしたし。
問題は二乃ですか。
どっちにしろ、風太郎があの状態であることを考えれば、金太郎になることは不可能。
そして同時に正体バレも時間の問題かなぁと。
そうなると、問題はバレ方ですよね。
理想は風太郎から正直に言う、次点で二乃が自力で気づく。
最悪なのは、他の姉妹に教えられる、気づかされる。
かなぁとは思います。
さて、どう転ぶのか。